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Shopify Inboxは長らく「無料のライブチャット」でした。2026年9月時点のApp Storeリスティングを見ると、説明文が変わっています。「An AI sales associate that knows your customers」——顧客を知っているAI販売員、です。
Shopifyヘルプセンターには Inbox agent という機能のドキュメントが追加され、商品質問への回答、パーソナライズされたレコメンド、注文照会、カートへの追加までを自動で行うと説明されています。
一方で、同じドキュメントには制約もはっきり書かれています。早期アクセスで一部マーチャントのみ。新しい顧客アカウントが必須。そしてオンラインストアのチャットウィジェット内でのみ動作する。
この最後の一行が、GorgiasやTidioといったヘルプデスクアプリとの境界線を決めています。この記事では、Shopifyヘルプセンターの記載を根拠にInbox agentができることとできないことを整理し、アプリの併用が必要になる条件を切り分けます。調査日は2026年9月1日です。
先に結論
問い合わせがオンラインストアのチャットに集中していて、内容が商品質問と注文照会中心なら、Shopify Inboxと、利用できるならInbox agentで足ります。無料です。
メール、SMS、Instagram DM、WhatsAppでも問い合わせが来ているなら、Inboxでは受けられません。ヘルプデスクアプリの領域です。
旧来の顧客アカウント(レガシー顧客アカウント)のままなら、Inbox agentは使えません。会話はスタッフ対応のまま残ります。
AIが返信していることを顧客に伏せたいなら、Inbox agentは選択肢になりません。AIである旨の通知は自動表示され、削除も編集もできません。
管理画面を日本語で使いたいなら、今回比較した3つのうち日本語が対応言語に含まれるのはShopify Inboxだけです。
Inbox agentは何ができるのか
ヘルプセンターの記載を整理します。
Inbox agentは、ストアの商品カタログ、ストアポリシー、ページコンテンツ、ナレッジベースの情報とファイル、そして公開済みのストアフロントコンテンツ(ページ、ブログ記事、商品ケアガイドなど)を使って、リアルタイムに顧客の質問に答えます。
カタログにある特定の商品については、定性的なレビュー、フィードバック、評価、社会的証明を補うために、出典を明示したWeb検索を二次的な情報源として使うことができます。ただし一般的なWeb検索結果を自社ストアの知識であるかのように提示することはしない、と明記されています。
顧客に対しては次のことができます。
- 商品詳細、在庫、価格に関する質問への回答
- 顧客が探しているものに基づく商品提案
- 既存注文のステータス確認(顧客はサインインを求められます)
- 推奨商品のカートへの追加
- 顧客が使った言語での返信(ただし商品タイトルなどカタログの情報はストアの言語で表示される場合があります)
顧客がShopでサインインしている場合は、好み、サイズ、購入履歴に基づいて商品提案をパーソナライズできます。
動作範囲の3つの制約
ここが記事の本題です。
制約1: オンラインストアのチャットウィジェット内でのみ動作する
ヘルプセンターは「It only operates within your online store's chat widget(オンラインストアのチャットウィジェット内でのみ動作する)」と明記しています。
Shopify InboxのApp Storeリスティングの「Works with」欄も、Shopify AdminとOnline Storeの2つだけです。
つまりメール、SMS、Instagram DM、Facebook Messenger、WhatsAppからの問い合わせは、Inboxの管理対象外です。2026年8月のレビューでも、Shopify MessagingやFB Messenger、IG DMとの統合を求める指摘が確認できます。
制約2: 新しい顧客アカウントが必須
Inbox agentを使うための要件は3つです。Shopify Inboxがインストールされていること、アクティブなオンラインストアがあること、そして新しい顧客アカウント(new customer accounts)を使っていること。
レガシー顧客アカウントでは動作しません。ヘルプセンターは「レガシー顧客アカウントを使っている場合、アップグレードするまで会話はスタッフのままになります」としています。
加えてプラン要件があります。Shopify InboxはBasic、Grow、Advanced、Shopify Plusの各プランでのみ利用可能です。
制約3: AIであることの通知を消せない
Inbox agentを有効化すると、顧客には「チャットがShopifyによって提供されていること、AIと会話していること」の通知が表示されます。この通知は自動的に表示され、削除もカスタマイズもできません。
ブランドの世界観を作り込みたいストアにとって、これは無視できない制約です。逆に、AI利用の開示が求められる文脈では、実装コストなしで要件を満たせるとも言えます。
なお、カスタムのプライバシーポリシーを使っている場合、Shopifyは有効化前にポリシーの見直しを推奨しています。AI支援チャットにShopifyを使っていること、Shopifyがチャット内容を含む顧客データを応答生成とInbox agentの品質改善のために処理することの2点を記載すべき、とされています。
割り当てモードと引き継ぎ
Inbox agentは3つの割り当てモードから選べます。
| モード | 動作 |
|---|---|
| すべての会話 | 新規の会話すべてにInbox agentが自動割り当てされる |
| スタッフが対応できないときのみ | 設定した対応可能時間の外だけInbox agentが対応する |
| 割り当てない | Inbox agentはオフ。スタッフのみが対応する |
3つ目が、Inbox agentが提供される前からInboxを入れていたストアの既定値です。勝手にAIが応答を始めることはありません。モードの切り替えは随時可能で、再設定は不要とされています。
複雑な問い合わせや繊細な内容については、スタッフへの引き継ぎが発生します。顧客が人間との対話を求めた場合、またはInbox agentがスタッフの対応が必要と判断した場合の挙動は2通りです。
スタッフへの引き継ぎが可能なら、会話はスタッフへ移り、それまでのAIの文脈も引き継がれます。スタッフが対応できない場合、Inbox agentはストアの送信元メールアドレスを共有し、顧客がメールで連絡できるようにします。
そしてヘルプセンターは注意書きとして、Inbox agentが顧客に提供する情報の正確性についてはマーチャントに責任があると明記しています。商品情報とポリシーの整備が、そのまま応答品質になる構造です。
「学習」の実態
Inbox agentのトレーニングについても、誤解しやすい点があります。
トレーニング方法は2つ。ひとつは練習シナリオで、商品カタログとペルソナから生成された会話に対し、2つの応答案から選ぶか、自分で応答を書きます。もうひとつは実際の会話の評価で、顧客との実会話に対して高評価・低評価を付けます。
ここが重要です。ヘルプセンターは「トレーニングはInbox agentがストアについて知っている内容を変えません」と明記しています。商品、ポリシー、ページコンテンツは別系統の情報源であり、トレーニングが調整するのは声とスタイル、つまりペルソナです。
さらに、トレーニングの結果はペルソナの更新案として提示され、自動では適用されません。マーチャントが現行ペルソナと比較したうえで承認する必要があります。そして実会話の評価について「評価や改善案の提示は今後のトレーニングのためのフィードバックであり、顧客がすでに見たメッセージを変更するものではありません」とも書かれています。
「使えば使うほど賢くなる」という一般的なイメージとは、設計思想が異なります。
アプリを併用すべき条件
以上を踏まえると、ヘルプデスクアプリが必要になるのは次の場合です。
メールやSNSのDMでも問い合わせが来ている。チケットとしてステータス管理・担当割り当てをしたい。返金や注文編集をAIに実行させたい。電話やSMSも一元管理したい。レガシー顧客アカウントから移行できない事情がある。
逆に、チャット問い合わせが中心で、AIが答えるべきなのが商品質問と注文照会なら、無料のShopify Inboxを超える理由は薄いままです。
Shopify Inbox・Gorgias・Tidioの比較
2026年9月1日時点のShopify App Storeで確認した情報です。金額は米ドル表記です。
| 項目 | Shopify Inbox | Gorgias: AI, Helpdesk & Chat | Tidio: AI Chatbot & Live Chat |
|---|---|---|---|
| 開発元 | Shopify | Gorgias Inc. | TIDIO LLC |
| 評価(件数) | 4.6(5,505件) | 4.3(633件) | 4.8(1,256件) |
| 料金 | 無料 | $10/月〜 | 無料プランあり/$29〜$39/月 |
| 課金単位 | なし | チケット数+エージェント数 | 会話数/訪問者数/Lyro会話数 |
| 対応チャネル | オンラインストアのチャットのみ | メール、チャット、SNS、音声、SMS | チャット、メール、SNS(Instagram・WhatsApp含む) |
| AIの実行アクション | 商品提案、注文照会、カート追加 | 自律的なチケット解決 | 返金、キャンセル、注文編集(ルール内) |
| 日本語UI | あり | なし(英語のみ) | なし |
| Shopify Flow | 記載なし | 対応 | 記載なし |
| 公開年 | 2019年 | 2017年 | 2014年 |
比較表から読み取れること
課金単位が3者とも違います。 Shopify Inboxは無料です。Gorgiasは「チケット数」で、Starterプラン$10/月に50チケットと3エージェント、超過は1チケットあたり$0.40。Basicプラン$60/月は300チケットとエージェント無制限で、超過は100チケットごとに$40。Proは$360/月で2,000チケット、Advancedは$900/月で5,000チケットで、この2つの超過は100チケットごとに$36です。Tidioは機能ごとにプランが分かれており、Customer Service $29/月(100会話、250〜1,000会話は$59)、Flows $29/月(訪問者4万人まで)、Lyro AI Chatbot $39/月(Lyro会話200件まで)という構成です。
Gorgiasの構造は、問い合わせが増えるほど費用が増える設計です。AIで自動解決した分もチケットとして計上されるかは、導入前に確認する価値があります。一方Tidioは「Lyroは上限で停止するので請求が予想外に膨らまない」と明記しており、上限到達時の挙動を設計思想として打ち出しています。
日本語UIがあるのはShopify Inboxだけです。 App Storeの対応言語欄で、Shopify Inboxには日本語が含まれます。Gorgiasは英語のみ。Tidioは英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ポルトガル語(ブラジル)、スペイン語で、日本語の記載はありません。日本語で日常運用したいストアにとって、これは実務上大きな差です。
評価の分布に差があります。 Tidioが4.8で1つ星4%、Shopify Inboxが4.6で1つ星3%に対し、Gorgiasは4.3で1つ星が9%(55件) と、3者の中で最も高い比率です。2026年8月25日付のレビューには、7年近く利用している米国のストアから「以前は優れたサポートだったが着実に低下している。直近の問題は解決に3か月以上かかり、顧客体験に悪影響が出てリピーターを失った」という内容が確認できます。同じ8月には5年近く利用しているストアからカスタマーサクセス担当を高く評価するレビューも複数あり、評価が二極化していると読むのが妥当です。
AIが実行できるアクションの範囲が違います。 Inbox agentができるのは注文照会とカート追加までです。Tidioは「Lyro Actions」として返金、キャンセル、注文編集をShopify内またはAPI経由で実行すると明記しています。Gorgiasは「Autonomous ticket resolution: AI Agent handles end-to-end support」としています。返金や注文編集をAIに任せる要件があるかどうかが、無料と有料の分岐点になります。
Shopify Inbox
無料で、日本語UIがあり、Shopify管理画面と一体で動きます。デスクトップ(inbox.shopify.com)とiOS・Androidアプリから対応でき、商品リンク、割引コード、画像の送信ができます。
2026年8月には、チャット開始時の顧客情報の扱いに関する設定が追加されています。Shopifyのレビュー返信によれば、Sales channels > Inbox > Chat settings > Collect customer details で「名前とメールアドレスを要求」「サインインを要求」「匿名チャットを許可」の3つから選べます。同じ返信で、この設定がスタッフ対応のチャットに適用されるものであり、AIエージェントは設計上、匿名の訪問者にもその場で回答すると説明されています。Shopifyがサインインを既定にしているのは、顧客が残したメールアドレスの所有を確認するためだとしています。
チャット問い合わせが中心の中小規模ストア、まずコストをかけずにAI応答を試したいストアに向きます。
Gorgias: AI, Helpdesk & Chat
メール、チャット、SNS、音声、SMSを1つの受信箱に統合するヘルプデスクです。100以上の連携を掲げ、Shopify Flow、Klaviyo、Recharge、Attentive、Yotpo、Aircallなどが「Works with」に挙げられています。データアクセス権限も広く、下書き注文、注文編集、全注文履歴、割引コードの編集まで含みます。返金や注文編集をサポート画面から完結させる運用を前提にした設計です。
一方で、英語UIのみ、チケット課金、そして前述のレビュー分布は、導入前に検討すべき材料です。
チャネルが分散していて、専任のサポートチームがいる中〜大規模ストアに向きます。
Tidio: AI Chatbot & Live Chat
AIエージェント「Lyro」を中核に、チャット、メール、Instagram、WhatsAppを1つの受信箱で扱います。Lyroは商品ページで会話を開始し、商品を比較し、カートに追加するという「売る側」の動きも打ち出しています。無料プランでは50ユーザーとのライブチャット、月100訪問者までのFlows、チケット管理、モバイルアプリ、SNS連携が使えます。
SOC 2 Type 2への言及がリスティングにあります。日本語UIはありません。
SNSのDM対応が必要で、AIに返金や注文編集まで任せたい小〜中規模ストアに向きます。
ケース別の判断
まず無料で試したい
Shopify Inboxを入れ、Inbox agentが利用可能かを管理画面で確認します。利用できない場合でもスタッフ対応のチャットとして機能します。
日本語の管理画面が必須
今回の3本ではShopify Inboxのみです。
メールやSNSのDMも受けている
Shopify Inboxでは受けられません。GorgiasかTidioの領域です。SNSのDMが中心ならTidio、メールと音声を含む多チャネルならGorgiasが候補になります。
AIに返金や注文編集まで実行させたい
Inbox agentの範囲外です。TidioのLyro Actionsまたは Gorgias のAI Agentを検討してください。
レガシー顧客アカウントから移行できない
Inbox agentは動作しません。スタッフ対応のInboxか、外部のヘルプデスクアプリになります。
問い合わせ件数が月数千件規模
Gorgiasのチケット課金は件数に比例します。Proプラン以上のコストと、自動解決分の計上ルールを事前に確認してください。
導入前チェックリスト
- 自社の問い合わせがどのチャネルに何割ずつ来ているか把握しているか
- 顧客アカウントは新しい顧客アカウントか、レガシーか
- Shopifyプランは Basic 以上か
- AIであることの通知が表示される前提で、ブランド体験を設計できるか
- プライバシーポリシーにAI支援チャットの記載があるか
- AIに実行させたいのは「回答」までか、「返金・注文編集」までか
- 課金単位(チケット数・会話数・訪問者数)と自社の問い合わせ件数が噛み合っているか
- 上限に達したときの挙動(停止するのか、超過課金されるのか)を確認したか
- 商品情報とストアポリシーが、AIの回答品質に耐える精度で整備されているか
まとめ
判断の順番は次の4つに整理できます。
- 問い合わせのチャネル構成を数える。オンラインストアのチャットに集中しているなら、Shopify Inboxが第一候補です
- 顧客アカウントの種別とプランを確認する。レガシー顧客アカウントではInbox agentは動きません
- AIに実行させたい範囲を「回答まで」か「返金・注文編集まで」かで決める。ここが無料と有料の分岐点です
- 有料アプリを選ぶ場合、課金単位と上限到達時の挙動を自社の件数に当てはめて試算する
Inbox agentは早期アクセスで一部マーチャントのみに提供されている段階です。仕様は変更される可能性があります。導入前にShopifyヘルプセンターとApp Storeの各リスティングで最新の記載を確認してください。
出典
- Shopify Inbox — Shopify Help Center
- Assigning your Inbox agent to conversations — Shopify Help Center
- Training your Inbox agent — Shopify Help Center
- Deprecating Shop Inbox in the Shop App — Shopify Changelog
- Shopify Inbox — Shopify App Store
- Gorgias: AI, Helpdesk & Chat — Shopify App Store
- Tidio: AI Chatbot & Live Chat — Shopify App Store
Shopifyの各バリエーションにはbarcodeフィールドがあり、bin location(棚番)もpick listも今や標準機能です。それでも標準にない画面がひとつだけあります。梱包台で商品をスキャンして、Shopifyが「この注文で合っている/違う」と答える瞬間です。Shopify POSのバーコードスキャンは、カートへの商品追加、検索、在庫転送の受け取りのために文書化されていて、オンライン注文の明細を検品するためのものではありません。2026年9月2日時点でUS App Storeの実在アプリ7本の料金を確認したところ、課金の分母が5種類に分かれていました。注文数、スキャナー台数、ユーザー数、フルフィルメント件数、そして定額です。月5,000件の出荷では、同じ作業がFulfil‑IT ‑ Scan & Packで14.99ドル、Pickware ERP & WMSで938ドルになります。