この記事でわかること
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「会員だけ10%引きにしたい」という要件は、Shopifyでは一見すぐ実現できそうに見えます。顧客タグで会員を分け、その顧客だけが使える割引コードを配れば済むように思えるからです。
実際、小さく始めるならそれで動きます。問題は、会員が101人になったときに起きます。
Shopifyヘルプセンターの「割引コード」ページには、次の記述があります。
1つの割引コードは、最大100件の特定の顧客、商品、バリエーションに適用できます。これを超えると、次のエラーメッセージが表示されます:
There is 1 error with this discount code: Item entitlements exceeded max number
顧客・商品・バリエーションの合計で100件です。会員を100人指定した時点で、対象商品を1つも絞り込めなくなります。
この記事では、Shopify標準で会員限定価格をどこまで組めるのか、どの数字で破綻するのか、そしてメンバーシップアプリ3本の課金構造が根本的に違うことを整理します。調査日は2026年9月1日、料金はShopify App Store掲載のUSD表記です。
先に結論
会員が数十人規模で、当面増える予定がないなら、顧客を指定した割引コードで足ります。アプリは不要です。
会員が100人を超える、または超える予定があるなら、標準の割引コードでは組めません。アプリか、Shopify Functionsを使った独自開発になります。
会員限定コンテンツ(動画、PDF、限定ページ)を出したいなら、管理画面の設定だけでは実現できません。Shopifyの割引は価格計算にしか介入しないため、コンテンツの出し分けはテーマのコード編集か、アプリの担当領域になります。
アプリを選ぶ場合、課金の分母から決めてください。3本とも構造が違います。
- 会員数が読める、750人以内に収まる:Appstle℠ Memberships(無料25人/19 USD 100人/39 USD 500人/79 USD 750人)
- 会員数を上限なく増やしたい、会費単価が低い:Conjured Memberships(19 USD/月+メンバーシップ取引額の1.9%、会員数無制限)
- 段階的なティア設計を重視する:Inveterate by Onward。ただし料金はApp Storeに掲載されていません
そして共通の注意点として、この3本はいずれも日本語UIがありません。すべて英語のみです。
Shopify標準でどこまでできるか
会員価格という機能は存在しない
Shopifyの商品には価格フィールドが1つしかありません。「一般価格」と「会員価格」を並べて持たせる仕組みは標準にありません。
したがって会員限定価格は、必ず「割引を当てる」という形で実装することになります。標準で使える割引の当て方は2つです。
割引コード:顧客が入力する。管理画面で対象顧客を指定できる。
自動割引:条件を満たすと自動で適用される。顧客が何もしなくてよい。
会員体験としては自動割引のほうが自然です。会員がログインすれば自動的に会員価格になる、という挙動になるからです。しかし、ここに次の制約がかかります。
破綻する4つの数字
Shopifyヘルプセンターに明記されている制限のうち、会員価格の設計に直接効くものが4つあります。
1つ目、割引コードの100件制限。 1つの割引コードで指定できる顧客・商品・バリエーションの合計は100件までです。会員100人を指定したら、商品側の絞り込みができません。会員50人と対象商品50点なら、ぎりぎり成立します。会員が増えるたびにコードを分割して運用する、という設計は現実的ではありません。
2つ目、アクティブな自動割引は25個まで。 ヘルプセンターは「最大25個のアクティブな自動割引を持つことができます。この合計にはアプリ由来の割引も含まれます」と明記しています。ティアを3段階、対象カテゴリーを5つに分けて自動割引を組むと15個。ここにセール用の自動割引やアプリが作る割引が加わると、25個の枠は思ったより早く埋まります。
3つ目、同一商品への商品割引の重ね掛けはShopify Plus限定。 「会員割引10%」と「季節セール20%」を同じ商品に同時に効かせたい場合、これはPlusプランでのみ設定できます。Plus以外のプランでは、組み合わせられない場合は顧客にとって有利なほうだけが適用されます。
4つ目、商品割引と注文割引の組み合わせは条件付き。 すべてのプランで使えるのは「注文割引+送料割引」「商品割引+送料割引」「別々の商品に対する商品割引どうし」の3つだけです。「商品割引+注文割引」と「注文割引どうし」は、対象要件を満たすストアのみ利用できます。要件は、checkout.liquid のカスタマイズや機能を使っていないこと、そしてLicensifyアプリを使っていないことです。
なお割引の重ね合わせについては別記事で6通りの組み合わせを整理しています。
標準機能でできない領域
価格以外の会員特典は、標準機能の範囲外です。
限定コンテンツの出し分け。会員だけに動画やPDF、限定ページを見せる設定は、管理画面には用意されていません。割引は価格計算にしか介入しないためです。テーマのLiquidを編集して顧客タグで表示を分岐させる方法は取れますが、コード編集が必要になり、会員ステータスの更新も別途仕組みを用意することになります。
会費の自動請求。会員から月額会費を継続的に徴収する仕組みは、純正のShopify Subscriptions(評価3.7・752件)が定期購入商品として扱う形になりますが、これは「商品を定期配送する」設計であり、会費と特典を紐づける設計ではありません。
会員ステータスの自動管理。会費が決済できなかったら会員タグを外す、期限が切れたら特典を停止する、といった運用は標準では回りません。
判定
会員100人未満、価格特典のみ、コンテンツの出し分け不要なら標準機能で足ります。それ以外はアプリが有力です。
メンバーシップアプリ3本の比較
2026年9月1日時点のShopify App Store掲載情報です。
| アプリ | 課金の分母 | 最低料金 | 無料プラン | 評価(件数) | BFS | 公開日 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Appstle℠ Memberships | 月あたり会員数 | 19 USD/月(100人) | あり(25人) | 5.0(863) | あり | 2022年2月3日 |
| Conjured Memberships | 月額+取引額の% | 9.99 USD/月+2.9% | 開発ストアのみ | 4.9(83) | なし | 2021年10月14日 |
| Inveterate by Onward | App Store非掲載 | 確認できず | Free to install | 4.9(12) | なし | 2022年4月22日 |
BFS=Built for Shopifyバッジ。3本とも対応言語は英語のみ。
この表から読み取れることが3つあります。
課金の分母が根本的に違う。Appstleは会員数で価格帯が決まる定額制です。Conjuredは会員数無制限ですが、メンバーシップ取引額に対して0.9〜2.9%の従量課金がかかります。同じ「メンバーシップアプリ」でも、コストの伸び方がまったく違います。
Inveterateは料金がApp Storeで確認できない。掲載は「Free to install. Additional charges may apply.(無料でインストール、追加料金が発生する場合があります)」のみで、価格表の欄には「詳細な料金は当社ウェブサイトをご覧ください」と書かれています。App Store上で他社と料金を比較することができません。導入検討には個別の問い合わせが必要になります。
レビュー規模の差が大きい。Appstleが863件、Conjuredが83件、Inveterateが12件。Inveterateについては、App Storeに表示されている直近のレビューが2024年10月のもので、2025年以降の新しい評価が確認できません。
課金の分岐点を計算する
Appstleの定額とConjuredの従量、どちらが安いかは会員数と会費単価で決まります。公開されている料金から計算できるので、実際にやってみます。
前提:会費を1人あたり月10 USDと仮定します(これは説明のための仮定であり、公式情報ではありません)。
会員25人の場合(メンバーシップ取引額 250 USD/月)
- Appstle FREE:0 USD
- Conjured Limited Special:9.99 + 250×2.9% = 約17.24 USD
Appstleの無料プランがそのまま使えます。
会員100人の場合(1,000 USD/月)
- Appstle STARTER:19 USD
- Conjured Starter:19 + 1,000×1.9% = 38 USD
会員500人の場合(5,000 USD/月)
- Appstle BUSINESS:39 USD
- Conjured Starter:19 + 5,000×1.9% = 114 USD
- Conjured Growth:69 + 5,000×0.9% = 114 USD
ここで面白いことが起きます。メンバーシップ取引額が月5,000 USDちょうどのとき、ConjuredのStarterとGrowthが同額になります。(69−19)÷(1.9%−0.9%) = 5,000 という計算です。月5,000 USDを超えるならGrowthのほうが安くなります。プラン選定の分岐点として覚えておく価値があります。
会員750人の場合(7,500 USD/月)
- Appstle ENTERPRISE:79 USD
- Conjured Growth:69 + 7,500×0.9% = 136.5 USD
まとめると、Appstleの上限である月750会員までの範囲では、この前提のもとでAppstleの定額のほうが安く収まります。Conjuredの従量型が意味を持つのは、750会員を超えて増え続ける場合か、会費単価が極端に低くて取引額が小さい場合です。
ただしこれは料金だけの比較です。会費単価を変えれば結果は変わりますし、機能の差は含んでいません。自店の会員数と会費で必ず計算し直してください。
各アプリの中身
Appstle℠ Memberships
米国カリフォルニア州メンローパークのAppstle Membershipsが2022年2月から提供。Built for Shopifyバッジを取得しており、評価5.0(863件)はこの3本で最大です。
無料プランで月25会員まで使えます。この無料枠には、会員限定割引とゲートアクセス、顧客・注文へのティア別タグ付け、会員ポータル、自動請求、カスタマイズ可能なメール通知が含まれます。有料はSTARTER 19 USD(100会員)、BUSINESS 39 USD(500会員)、ENTERPRISE 79 USD(750会員)。年払いで20%割引。
上位プランで増える機能は、決済リトライ(dunning)、サードパーティアプリ連携、解約・リテンション管理、会員ポータルのHTML編集、独自メールドメイン、一括自動化と操作ログなどです。750会員を超える場合はApp Store上で「エンタープライズ、API、Webhookについてはお問い合わせください」と案内されています。
Shopify Checkout、お客様アカウント、Shopify POS、Shopify Flowとの連携がApp Storeの「Works with」欄に記載されています。POS連携があるのは、この3本ではAppstleとInveterateです。
レビューでは複数件にわたってサポートの応答性への言及が確認できます。2026年8月6日付のレビューでは、Shopifyとアプリをまたぐ設定に手間取ったが、サポートが同期の問題まで含めて解決したという記述があります。2026年8月26日付のレビューには請求サイクルの問題が修正されたという記述があり、過去に課金まわりの不具合があったことがうかがえます。
向いているストア:会員数が750人以内に収まる見込みで、月額を固定したいストア。無料枠で25人まで試せるため、検証の入口としても使えます。
Conjured Memberships
米国コロラド州ボルダーのConjuredが2021年10月から提供。評価4.9(83件)、Built for Shopifyバッジはありません。
料金構造が3本の中で唯一の従量型です。Limited Special 9.99 USD/月+メンバーシップ取引額の2.9%(1取引あたり最低0.10 USD)、Starter 19 USD/月+1.9%、Growth 69 USD/月+0.9%。開発ストア向けの無料プランは、Shopifyパートナーの開発ストアとShopify Plusの開発ストアが対象です。
Starterプランの機能欄には「会員数・メンバーシップ売上の上限なし」「HTMLとメールの完全カスタマイズ」「会員限定価格・特典・コンテンツ」が明記されています。会員数に上限がないのがAppstleとの最大の設計差です。
Shopify Checkout、お客様アカウント、Shopify Flow、Klaviyo、Mailchimp、Sendgrid、Sky Pilotなどとの連携が記載されています。権限要求にShopify Functions(カートとチェックアウトの検証)が含まれており、チェックアウト側で会員判定を行う設計であることがうかがえます。
注意点として、2026年2月12日付のレビューに「Shopifyでは0ドルの請求で顧客を登録できない」という記述があります。無料の会員ティアを作りたい場合、追加の設定が必要になるようです。無料ティアを含む設計を検討している場合は、導入前に確認してください。
向いているストア:会員数の上限を気にせず増やしたい、または750会員を明確に超える見込みのストア。
Inveterate by Onward
米国テネシー州ナッシュビルのInveterateが2022年4月から提供。評価4.9(12件)、Built for Shopifyバッジはありません。
無料ティアと有料ティアを組み合わせた段階的なメンバーシップ設計を前面に出しており、ティアごとに価格、請求頻度、特典を変えられること、ストアクレジット、送料無料、会員限定商品を1つのプラットフォームで扱えることをApp Storeで説明しています。Shopify Checkout、お客様アカウント、Shopify POS、Klaviyo、Postscript、Rebuy、Tapcartとの連携が記載されています。
最大の注意点は、App Storeに料金が掲載されていないことです。「Free to install. Additional charges may apply.」という表記のみで、価格帯もその分母も分かりません。他の2本と同じ土俵で比較するには、開発元への問い合わせが必要です。
またレビューが12件と少なく、App Storeに表示されている最新のレビューが2024年10月付です。2025年以降の運用実態を第三者の記録から確認することが難しい状態にあります。
向いているストア:無料ティアと有料ティアを併存させる設計を重視し、個別に見積もりを取る前提で検討できるストア。
導入前チェックリスト
- 会員数の12か月後の見込みを出したか。100人を超えるなら標準の割引コードでは組めない
- 会費単価を決めたうえで、定額型と従量型のコストを計算し直したか
- 会員限定コンテンツが要件に含まれるか。含まれるなら標準機能では実現できない
- 無料の会員ティアを作る予定があるか。0円請求の扱いを事前に確認する
- 既存のアクティブな自動割引が何個あるか。25個の上限にアプリ由来の割引も含まれる
- 会員割引とセール割引を同じ商品に重ねたいか。重ねるならShopify Plusが必要
- POSで会員特典を使う予定があるか。App Storeの「Works with」欄でPOS対応を確認する
- 日本語UIが必要か。この3本はいずれも英語のみ
- アンインストールしたとき、会員タグ・会費の請求・限定コンテンツの出し分けがどうなるか(アンインストール時に残るものの整理はこちら)
まとめ
判断の順序は3つです。
1. 会員数の見込みを先に出す。 100人未満なら標準の割引コードで足ります。100人を超えるなら、そこから先は標準では組めません。この線引きがアプリ導入の要否を決めます。
2. 課金の分母を決める。 会員数で課金されるAppstle、メンバーシップ取引額の割合で課金されるConjured、App Storeでは分からないInveterate。同じカテゴリーのアプリでもコストの伸び方が違うため、自店の会員数と会費で計算してから選んでください。
3. 価格以外の要件を洗い出す。 限定コンテンツ、会費の自動請求、会員ステータスの自動管理。これらが要件に入るかどうかで、必要なプランと必要なアプリが変わります。
本記事の料金・評価・バッジ情報は2026年9月1日時点のShopify App Store掲載内容、標準機能の制限はShopifyヘルプセンターの記載に基づきます。導入前に各アプリの掲載ページで最新の内容を確認してください。
Shopifyの管理画面側の住所検証は、全プランで常時有効、無料で、米国に対応している。チェックアウト時の検証もトグル1つで有効にできる。そのうえで公式ドキュメントは、サードパーティの住所検証アプリを同時に使うと提案が競合してチェックアウトのコンバージョンを下げうるため、どちらか一方にせよと明記している。ここでカテゴリの見え方が変わる。アプリは配送可能性の判定を二重化するためのものではなく、Shopifyの検証がやらない「私書箱の拒否」「部屋番号の必須化」といったポリシー強制のためのものだ。2026-09-02時点で米国App Storeの実在アプリ4本を確認した。月額4.99ドルの定額、1注文あたり0.04ドル、そしてShopifyの請求とは別に契約が必要なものまで幅がある。